かつて、ワープロアプリは文書作成のための道具というよりも、清書の道具として使われていた。つまり、印刷が前提だ。文書である限り、自分のためというよりも、誰かに見せることが目的だ。そのためにも念入りな化粧が必要だった。
紙のどうしようもなさを何とかする
文書は人に読んでもらい、その内容を的確に伝えるためにある。かつては紙に印刷することが前提だったので、A4の用紙にうまくおさまるように、大事な箇所がページをまたがないようにといった配慮がなされていた。今も多くの現場でそんな扱いをされている。
だが、今、文書は、必ずしも紙に印刷されて読まれるわけではない。いや、どちらかといえば、パソコンの画面上で読まれることの方が多いのではないだろうか。だとしたら、その読まれ方に最適化して作った方がいい。
たとえば、Wordで新しく文書の作成を始めるときには、白紙の文書が用意される。既定では「印刷レイアウト」で白紙が表示され、中味の量に応じてページが追加されていく。ページ全体は紙そのもので、四方に余白が確保され、ページとページは明確に分離される。
わかりやすい反面、パソコンで扱う場合に、たとえば、Wordのウィンドウを小さくすると、ページ全体を表示しきなくなったり、表示できたとしても判別が難しいほど小さくなってしまったりもする。どうしようもなく紙なのだ。
Webレイアウトを常用してみよう
Wordの編集画面表示には、その表示モードとして、既定で使われる「印刷レイアウト」以外に、いくつかのレイアウトがある。その中から「Webレイアウト」を使ってみよう。表示メニューのリボンコマンドで任意のレイアウトに切り替えることができる。
Webレイアウトでは、文書からページの概念が取り払われる。ページの区切りがないのはもちろん、上下左右の余白どころか、用紙としての横幅の概念もなく、入力されている文字列は、そのときのウィンドウの幅に応じて折り返される。テキストズームで文字サイズを変えても折り返し位置が調整される。あるのは縦方向のスクロールだけだ。これなら文書を読むのみならず、複数の文書を並べて参照しながら、別の文書を作成するという作業もしやすい。
人それぞれ、使っているパソコンのスクリーンサイズは異なる。A4用紙を前提にした文書に目を通すのに何の苦労もない環境もあれば、そうでない環境もある。
だが、Webレイアウトを使って作業すれば、多くの環境でユーザーごとに最適な表示を得ることができて効率がいい。作る側にも読む側にもメリットは多い。印刷の必要のない文書では、ずっとWebレイアウトを維持した方がむしろ使い勝手がいい。
ちなみにPDFも折り返し機能がサポートされ、紙の呪縛を取り除ける。そのPDFが作成された環境にも依存するが、Adobe Readerで[表示]-[ズーム]-[折り返し]で設定できるので覚えておくと便利だ。
仮に、最終的に紙への印刷が必要な文書だったとしても、Webレイアウトで作成作業を進めることで、文書の見かけに気をとられて、肝心の中味に集中を欠くことがない。中味ができあがった時点で、印刷レイアウトに切り替えて最終的な体裁を整えればいい。レイアウトの切り替えで体裁が破綻するのは、その文書の構造がそもそもおかしいと考えよう。
ただし、写真、図版や表が挿入されたコンテンツでは印刷レイアウトとWebレイアウトの切り替えで不都合を感じるかもしれない。これについては何らかの方法で解決する必要があるのだが、まだ決定打がない。やっかいなことに、多くのWebサイトにもページやその横幅の概念が持ち込まれてしまっている。このサイトも例外ではないのがなさけない。