いつでもどこでも仕事をするためには、いつでもどこでも仕事をするのに困らないようにしておく必要がある。たとえば、ある日突然、愛用のパソコンが壊れ、ウンともスンとも言わなくなっても仕事を続けられるだろうか。
|| かけがえのない「ひみつきち」を作らない
在宅勤務を強いられる世の中になって、自宅での執務環境を、よりリッチなものにすることを考える方が多いようだ。外部モニタを買ったり、オンライン会議用にカメラやマイクに凝って装備を充実させたりといった具合だ。それは決して悪いことではないが、今までオフィスという場所で得られていた環境を劣化コピーしているにすぎない可能性もある。さらに、何らかの事情で在宅での勤務が難しい状況になったときには、ゼロからやり直しになってしまうということでもある。
いわゆるモバイラーの中には、最高に近い環境を唯一無二のものとして持ち運ぶことで、場所を問わない執務環境を得ている人も少なくない。だが、モバイルには犠牲がつきものだ。可搬であることが前提なので、いろいろな部分をガマンする必要がある。決して、最高に近くても、本当に最高の環境であるとはいえない。
|| クラウドを使って唯一無二を回避する
今、ぼくらが考えなければならないのは、環境を構成する要素の多くが、いきなり失われても困らないようにしておくことだ。
たとえばパソコン。壊れたらたいへんだ。仕事が止まってしまう。何が何でも守らなければならない。だからパソコンを大事に使おうという話にはならない。昔だったら、失われても困らないようにバックアップをきちんととっておこうというような話になったはずだ。
だが、今は、クラウドサービスがある。クラウドに置けるものは、すべてクラウドに置いておくようにすればいいし、身の回りのあらゆるものを、できる限り、クラウドにおけるものに変身させることを考える。このサイトの一連の記事でも、FAXの撤廃やメールの重要性、紙の書類を減らすための考え方などについて書いてきた。
|| 「ひみつきち」のレシピを作ろう
道具としてのパソコンはどうか。予備のパソコンを用意しておくのは理想だが、なかなかそういうわけにもいくまい。ある日突然パソコンが壊れて使えなくなってしまったら、なんとか別のパソコンを調達し、昨日まで使っていたパソコンと同じことができるように仕立て上げなければならない。故障の場合は修理に時間がかかるし、量販店に飛び込んでも納得できるパソコンの在庫があるとは限らない。メーカー直販のダイレクト販売もある程度の時間はかかる。もしかしたら、パソコンそのものが、盗難や紛失に遭遇する可能性もある。その結果、家族のパソコンを拝借しなければならないような場合もあるかもしれない。とにかくなんとかして自由になるパソコンを入手する。
問題はその先だ。そんな事態に備え、自分が使う自分のパソコンがどのようにしてできあがっているのか、そのためのレシピに相当する手順書を作っておき、それもクラウドに置いておこう。必要な設定、必要なソフトウェアのすべてがそれを見ればわかるようにしておく。人によってはこうした煩雑さを回避するために、あらゆるものを「デフォルト」で使うというポリシーの持ち主もいる。デフォルトに自分を合わせるのだ。それはそれでひとつの戦略だ。
ぼくが作っている「新PC初期設定」というファイルには、新品のパソコンが手元にやってきたときに為すべき作業内容がすべて書き込んである。クラウドにあるソフトウェアなら、そのアドレスも記載し、ダブルクリックするだけでダウンロードできる。パソコンローカルのファイルの置き場も file://c:\users\xxx\yyyy として、フォルダの在処をフルパスで明記してある。メールの署名に設定する文字列もその中に書いてある。あらゆる設定変更がそこに書いてあり、買い物で材料を揃えながら料理を作るように順に作業していけばいいようになっている。
日常環境にちょっとした変更を加えてそれが恒常的なものになったときには、そのことを加筆して反映しておく。また、環境設定に必要な細々としたファイルはクラウドに置くとともに、同じものをUSBメモリに入れて常用しているカバンの中に忍ばせてある。メモリの内容はクラウドで誰でも手に入るファイルのコピーなので紛失しても困らない。これがぼく自身の「なんちゃってBCP」でもある。
そのおかげで、仕事で評価しなければならないパソコンも、数時間あれば常用パソコンとほぼ同じ状態になり、主観で使いやすさを見極めることができる。
働き方が変わり、働く意識が変われば、そこで使われる道具も変わって当然だ。だからこそ、失われては困る道具を持たないようにする。それが新しい当たり前だ。