2020/09/18

皿としての文書


 アプリで作るデータファイルは、いわば料理をのせる皿だ。食べる料理とはちょっと違うのは、材料をのせてから調理することが多いことくらいか。その皿を変えてみようかと思い始めた。

|| 秀丸エディタもオーバースペック

 日常的に使っているアプリは、Microsoft Officeの一連のアプリと、アドビのCreative Cloudに含まれるいくつかのアプリだ。このほかに、テキストエディタとして秀丸エディタを加えたWindows環境が、ぼく自身の仮想的な仕事場だ。
 文書の多くは、自分以外の第三者に読んでもらうために作成する。載せる材料としては、職業がライターなので文字がほとんどだが、ときには図版や写真も含まれる。動画については、まともなものにするのに時間がかかりすぎて、あまり関わりたくないこともあり、自分で撮影したり編集したりといったことはほとんどない。つくづく横着だ。
 これまでほとんどの仕事を秀丸エディタだけでこなしてきた。テキスト編集専用のアプリで、もう四半世紀以上使っている。多くの仕事では装飾の作業を第三者にまかせることができていたからだ。つまり、ライターの仕事は半完成品を作ることであり、分業で成り立ってきたといえる。
 文章を書くという仕事のために使うテキストエディタとしての秀丸の存在は、オーバースペックといってもよかった。
 ただ、最終的な納品物はテキストデータでも、それを執筆するという最終過程に至るまでには、数々の文書が求められることもある。アイディアを企画書にまとめたり、説明が必要ならプレゼンテーションのためのスライドを作る。そして、そうした目的の文書はテキストだけというわけにはいかず、ある程度のビジュアル要素が必要だ。また、昨今では文章中の文言にURLを設定するリンク設定の作業も必要だ。

|| Wordと秀丸エディタの両刀遣い遣い

 これらの素材を盛れる器としての文書をテキストエディタだけで作成するのは無理だ。必然的にWordなどの扱えるデータの種類が多く、リッチな文書を作れるアプリが必要になる。以前は、先に文章だけをテキストエディタで作り、それをWord文書に流し込んでいたが、最終的に文字データが重複し、加筆修正のプロセスで困るので、最初からWordで作ることも多くなった。もっとも、デザイン的に凝ったものについてはDTPアプリのInDesignを使うので、秀丸同様、Wordにおいても複雑な機能には縁がない。
 テキストエディタを使って書くのは、そのとき書いている文章量を把握しやすいからだ。物理的な何行目何文字目を書いているのかをリアルタイムで知りたい。Wordではステータスバーの左下に表示されるのは文字数だけで、それをクリックして表示される文字カウントのダイアログボックスで初めて行数が判明する。それでは、まどろっこしい。もちろん単なる物書きにとっては、Wordどころか秀丸もオーバースペックで、Windows標準のメモ帳でも十分すぎるくらいなのだが、入力中の行末禁則処理の機能がないのは許容できない。行頭に句読点がくるのは、文章を書いていてちょっと気持ちが悪いのだ。
 まだまだ印刷物の仕事がなくなるわけではなく、書きながら文字量を把握することが求められるし、ウェブも目安はある。だから当面はWordと秀丸の併用を続けざるを得ない。望みの機能を包含したアプリが出てきそうにないからだ。