ひとりでも別人28号
昔、RCSというソフトウェア環境があった。Revision Control Systemの頭文字をとったもので、日本語ではバージョン管理システムと呼ばれていた。
文書やプログラムソースのバージョンを管理するためのもので、あるファイルの編集を始めるときは、そのファイルにチェックインすることで、ファイルをロック状態にして自分以外の人がファイルを編集できなくし、編集が終わったらチェックアウトすることでロックを解除し、自分以外の人がチェックインできようにしておくというものだった。
主にソフトウェアの開発者がプログラミングのための環境として使っていたものだが、こういうシステムが一般的な文書管理にも使えたらいいなと思っていた。複数人で文書をあれこれいじるにはとても便利だったからだ。
一人で使う場合にも、チェックインして編集し、チェックアウトすると版がひとつ進む。それを繰り返して完成に向かわせるのだ。途中で気が変われば、いつでも前の版に戻ることもできる。
あの時代、一人が複数台の機器を同時多発的に使うなんてことはほぼ無いに等しかった。それでもファイルのバージョン管理は、システムが別に必要なほどやっかいだった。
同時多発的に同じファイルを編集
あれから30年くらいが経過した。時がたち、今は、事情は一変している。そんな大仰なシステムを使わなくても、文書などの共有はとてもカンタンになった。複数のユーザーによるコラボレーションでプロジェクトを進めるといったことはもちろん、一人で単独の文書を作るにしても、ワープロアプリの機能だけで、いろんなことができるようになっている。本当に同時なのだ。その気になればチャットだってワープロ文書でできる。ワープロ文書に書き込むチャットで会議をすればそのまま議事録になる。
中でも、ひとつの文書を複数の機器から同時に編集できるようになったのは画期的な変化だ。パソコンを使っている人は、おそらくスマホも使っている。場合によっては複数台のパソコンを併用しているかもしれない。もちろん、オフィスと自宅で別のパソコンを使っているようなこともありそうだ。
会社でパソコンを使い、電車で自宅に戻り、自宅で仕事の続きをするというのは当たり前のようにありそうだ。その過程で、同じ文書をにらみながら、ああでもない、こうでもないとネタを書き込んでいく。
プライベートな利用でも、自宅のパソコンで料理のレシピを物色し、必要な材料や調理の要点をパソコンでメモにして、スーパーでそのメモを参照しながら買い物をし、防水タブレットでメモを見ながら、持ち帰った材料を調理する。